第3話

 

「で? 一体何に決まったのさ?」
 日吉の家に上がりこむなり、俺はこたつに入ってから切り出した。こいつの家は寒い。
「おう。ばっちり。銃で撃ち殺す」
「はぁ!?」
 思わず声が裏返った。その反応に日吉はのけぞった。
「な、何だよ、本当に殺すわけないだろうが」
「あ。悪い悪い」
 我に返って謝りながら、あまりのタイミングのよさに悪態をつきたくなる。
「ま、ネットしない奴だからな。今宮は。それくらい驚いても不思議じゃないか」
「何? またネットのネタなの?」
 日吉は自他共に認めるインターネット中毒患者だ。こいつのネタは大体が、どこかの掲示板だったり、誰かのブログだったりする。
「いや。今回はテレビとか新聞とかにもちょこっと出てた。でも、祭りになってるのはやっぱりネットだな。ほれ」
 日吉から一枚のプリントアウトされた紙をもらう。白黒印刷だったが、雰囲気からするとインターネット配信のニュース記事を印刷したものらしい。俺は見出し部分だけ声に出して読んだ。
「中野区でも弾痕発見 連続事件の可能性?」
 ここ最近、銃弾の痕が都内の何箇所かで見つかっているらしい。いずれも撃たれた弾は一発。被害者はなし。代わりに目撃証言もなし。警察の鑑定によると、それぞれで発見された弾痕から、どれも同じ銃で発砲されたものらしい。今のところ、被害らしい被害は出てはいないものの、あちこちで何度も同じ弾痕が発見されること、一方の拳銃はまだ発見されていないことから、警察は今後大きな事件に発展する可能性を警戒し、捜査を進めている、という。
「で、極めつけはこれだな。見ろよ」
 いつの間にか立ち上がっていたノートパソコンの画面を示して、日吉はパソコンを俺のほうに向ける。
「何これ。『一丁のピストルと一発の弾丸 まとめサイト』?」
「この祭りの今までの経緯とこれからの予告がまとまっているんだ」
「予告?」
「どうやら、犯人と思しき連中が、いろんな場所にいろんな時間で、予告書き込みをしているらしいんだ。たいていはこの事件について言及したどこかの掲示板やブログなんだと。で、発見者から情報を募って、その集まってきた情報をここでまとめているんだ」
「へぇ」
 説明を聞きながら、俺はページを斜め読みする。発見された弾痕の場所ごとに時系列順に個別の記事にまとめてあるらしい。最初のページは、リンクを示す青い文字ばかりが目立つ。ためしにひとつクリックしてみると、予告書き込みが発見された日時と、事件が報道された日時、それからこの事件を追いかけている掲示板の書き込みが抜粋されている。その記事ひとつひとつを、大まかに眺めていく。事件が最近のものに近づくにつれ、ページはどんどん縦長になっている。けれど、ほとんどが落書きみたいな書き込みで、スペースだけが無駄に消費されていたので、実際に読むのにほとんど時間はかからなかった。とりあえず、このサイトのおかげで予告から報道までで見ると、だいたい三日から一週間といったところのようだ、ということだけはわかった。
「で? こういう事件があることはわかったけど。それと俺らがどう関係すんの? まさか、本物が届いたとでも?」
 冗談で言ったつもりだったが、同時に、俺の中でもいろいろなことが結びついた。今、俺のジャンパーの内ポケットに入っているものと、このニュースは関係があることじゃないのか、と。
 だが、そんなことは日吉は知らない。げらげら笑って否定した。
「まさか。んなわけないじゃん。でも、次の予告って奴を見つけちまったんだよ。俺。ここここ」
 俺からマウスを取り上げて、日吉はブックマークからあるページを呼び出した。そこは、ソーシャルネットワーキングの中の一ページだった。
『タイトル:ピストルと銃弾
 名前:
 本文:次は新宿区の方にお渡ししました。』
「新宿区……」
 我が家があるのは嫌な偶然の一致だ。
「そう。だから、お前が適任なんだよ」
「っても、銃はどうすんだよ? どんなものかもわかんねぇのに適当でいいのかよ?」
「適当でいいんだよ。どうせ誰も本物がどんなのかなんて知りやしねぇんだからさ。お前、佐々木ってわかる?」
「ああ。あの、おとなしい感じの奴?」
 丸顔の後輩を思い浮かべる。いつも眉毛が八の字に下がっている顔をした奴だ。
「そう。あいつの趣味がさ、モデルガン集めとかだったりするわけ」
「マジ?」
「だから、昨日、あいつにも事情話して早速一丁拝借したわけ」
 ごとっと言う音を立てて、日吉はテーブルの上に銃を置いた。黒い、手のひらサイズのリボルバー式。俺がさっき受け取った銃とかなり似ている。
「まさか弾も入ってるの?」
「まさか。でも、いわゆる空砲って奴? それが発射されるタイプの奴らしいよ。お前が来る前に実演してもらったけど、確かにあれは本物っぽくてびびったわ」
「じゃ、撃ち殺すっていうのは」
「フリだよフリ。きっつーいお灸をすえてやって、あいつの鼻っ柱をへし折るだけ」
「なーんだ」
「でも、撃つ役、お前だかんな」
「はぁ!?」
「当たり前だろう? 俺の住所、新宿区じゃないんだから。そこ変えたらリアリティに欠けるじゃん」
「ってもなぁ」
「だいたい、あいつの風当たりが一番強いのもお前だろう? お前がやるからあいつにも効くんじゃん」
 そう思うだろう? と言わんばかりに日吉は俺の肩をたたく。それと同時に、さりげないくらいのタイミングで俺に銃を手渡す。
「ちなみに、もし予告がすぐに現実になると都合悪いから、決行日は明日な」
 笑って言う日吉に、俺はあいまいにうなずく。予告がすぐに現実になるかどうかは、多分、俺次第だ。