第2話

 

 話の時計を少し過去へ戻す。
 数十分前、まじめな好青年を絵に描いたような郵便局員が、貧乏学生の俺の住むぼろアパートに、小包の配達に来た。身に覚えのなかった俺は、まずは疑ってかかった。
「あて先を間違えたんじゃないですか?」
「うーん。でも、確かにここの住所みたいなんですよねー……」
 好青年は困ったような顔で首を傾げた。困惑した表情は、純朴そうな印象を与える。
「送り主については何か書いてないんですか?」
「住所が『東京都ペンギン村』、名前が『のりまきせんべえ』」
「……中身は何です?」
「『雑貨』……、ですね」
 明らかにでっちあげの住所氏名に、どうとでも取れるような中身の書き方だ。これを受理した郵便局員がユーモア精神からOKしたのか、ただの職務怠慢だったのかはわからない。素直に読み上げた好青年も途方に暮れた目をしている。
「うーん。わかりました。こんな風に書いている以上、この荷物がどう扱われてもいい、という意志の表れでしょう。ひとまずお引取りしますよ」
 どんよりとした曇り空だった青年の顔に明るい光が差した。
「あ。ほんとですか? どうもありがとうございます!」
 そして、心からのお礼と、青空みたいな笑顔を残して青年は、本来の業務に戻り、俺と小包がその場に残された。

 

 そして、何の気なしに開封してみた結果、今に至る。
 はじめはモデルガンだと思った。
 全身を黒で塗りたくられた、手のひらよりもちょっと大きいくらいの小さな銃だった。
 昔のマフィア映画のロシアンルーレットにでも出てきそうな、リボルバーが回るタイプのもので、握りやすいようになのか、グリップは指の形にくぼんでいる。
 ずいぶんよくできているな、と手にとってみると、想像以上に重たい。
 妙にその銃が現実感と存在感を帯び始めた。
 黒光りする全体。いつでも発射できるのを待っているかのようなふてぶてしい感じ。
 背中がぞわぞわするような感覚を覚え始めたところで、俺はその箱の下に手紙が一枚入っていることに気づいた。

 

『おめでとうございます!
 厳正なる抽選の結果、貴方様には一丁のピストルが貸与されることとなりました。
 疑っておられる場合を考慮してあらかじめ申し上げますが、これは紛れもなく本物のピストルです。
 そして、中には一発だけ、本物の銃弾が装填されております。
 使い方はもちろん貴方様しだい!
 復讐・私怨に使うもよし、護身用にとっておくもよし、犯罪に使うもよしです!
 なお、貴方様にとって、この銃が不要になられたことを確認した時点で、私どもがそっと回収にあがりますので、処分等の心配も要りません! ご安心を!
 それでは、ステキなピストルライフをお過ごしください!』

 

 読んですぐ、その場で手紙を破り捨てたのは言うまでもない話だ。
 何の悪い冗談だと、誰彼となく怒りをぶつけたくなる。
「ったく」
 ふと気がつけば、ピストルが床に落ちていた。
 床に落ちているということは、放り投げられたか何かしたということで、それをやったのは、俺しかいない。
 状況を理解するまで、この間、二秒。
「わわっ」
 あわてて拾い上げた。
 どうやら暴発などはしなかったようなので、一安心。
 ほっとしたところで、俺は、手紙がもう一枚あることに気づいた。

 

『P.S.
 銃を初めて持たれる方へ。
 この銃はトリガーを強く引かなければ弾丸は発射されないような仕組みになっています。
 落としたり、放り投げたりといった、ちょっとしたショックで暴発することは(ほぼ)ありません。
 いざというときに備えて、安心して持ち歩きください。』

 

 こちらの紙は、読んですぐ丸めて投げた。見透かされているみたいで、どうも悔しい。
 やり場のない怒りを感じているところに、ケータイが陽気な着メロを奏でた。
 電話の相手が誰だか、画面を見なくてもわかった。
「もしもし、日吉?」
『もしもし、ああ、俺。今宮、すぐ出れる?』
「どうかしたの?」
『ああ。あいつのこと』
「……おっけ。すぐ行くよ」
 もしかしたら、このピストルの使い道が決まったかもしれない、と俺はこっそりと思った。