第4話
「――で、それなのに、呼び出したのは真澄じゃなくて、私なんだ」
「頼むよ! 俺もうワケわかんなくてさ。これが距離を置きたいんだか、近づけたいんだか、どっちなんだか教えてほしいんだよ!」
またしても、昨日、おとといと飲んだ飲み屋の一角。
今回目の前にいるのは、タメの折原優果(おりはら・ゆうか)だった。
同じ学年で、同じサークルの彼女は、女優としてなかなかの演技をすることで知られている。真澄とも俺とも親しく、いわゆる共通の友人というべき存在。ジーンズにTシャツとシンプルな格好にさばさばした性格は、同性異性を問わずかっこいいという印象を与える。俺は、そんな彼女に拝むように手を合わせた。
「あんた、本当にわかりやすいよねー」
優果は半ばあきれて、お手上げのポーズをしてみせた。
遠馬さんとも真澄とも違う銘柄のタバコを一口吸って、ため息のように煙を俺に吹きかけてくる。
「今のあんたは、一言で言えば、ただの『嘘つき』」
一緒に飛び出てきた辛らつな言葉に、俺はどう反応したらいいのかわからなかった。
「別の言葉に変えれば、『自分がない』」
彼女は、俺の反応などお構いなしに続ける。
「さっきから聞いてれば、あんた悪い意味で真澄のことばっかり。真澄の意図を誰かから聞き出して、どうしようって言うの? 距離を置きたいってわかったら別れるの? 距離を近づけたいんだったらコクるの? そうやって真澄のこと知った振りして、真澄のためみたいなことして。結局本人の意見を直接聞きもしないで、自分が一番傷つかないように予防線ばっかり張ってるだけじゃない?」
「そんな――」
「『そんなことない』?」
思わず反論しかけた俺を、自信ありげに優果は先回りする。その瞳のゆるぎなさに、俺はひるんだ。
「じゃあ、あんたは自分の意見が言える? 真澄のことをどう思ってるか。サークルの評価も、遠馬先輩のも、瑞穂のも、そして私のもまったく無視して、はっきり断言してくれる? あんたまた、どっちつかずに生きていれば、そのうちなんとかなる、なんて甘ったれたこと思ってるんじゃないの?」
優果の言葉に俺は沈み込む。周りがやけに騒がしい中、俺と優果のテーブルだけが妙に静かだった。ビールもつまみも一切減らない中、優果のタバコだけが灰を増やしていた。
「じゃあ」
「『じゃあ、どうすればいい?』なんて間抜けなこと、聞かないよね?」
またしても優果に先手を打たれて、俺は思わず口をつぐむ。
言おうとしたことそのままずばり、だった。
俺の様子から察したのか、優果は深いため息をつく。
「もし聞きたいんだったら、今回だけは特別に教えてあげる。答えは簡単。ただ、あんたが決めればいいの。あんたが真澄のことを好きなのか、嫌いなのか」
「俺が決める……」
「そう」
俺がつぶやくのを、彼女は肯定する。
「知ってる? 相談を持ちかけてくる奴って、二つの人種に分かれるんだって。一つは、自分の中で答えが決まってるくせに相談する奴。そして、もう一つは、自分では一切考えないで相談してくる奴」
どうでもいいことのように説明する彼女の言葉に、俺は顔を上げた。
「私は、あんたが前者だと信じてる。心の底の底じゃ、もう答えは隠し持ってると願ってる。ただ、あんたがそれを見つけてないだけで、誰かにそれがあることを教えてもらいたがってただけだったって」
自然と、深い息が漏れた。
ぼんやりして形になっていなかったものが、唐突に目の前に完璧な形で見せられたような、そんな気がした。
「悪い。なんか目、覚めたわ」
「いいよ、別に」
俺の顔を見て、妙に照れたような顔で優果が答える。ぱたぱたと自分の顔を仰ぎ、吸いかけだったタバコを消す。それから俺を追い払うようなしぐさをして見せた。
「ほら。もう答えは出たんでしょ? 早くしないと、今日、終わっちゃうよ?」
優果がケータイを見せてくれた。時刻は、夜の十時半。
「今日の酒代は、特別に私が払っといてあげるから」
「悪い」
それだけ言って、俺は席を立つ。優果は短く「いいよ」と笑って手を振ってくれた。その心遣いに感謝しながら、俺は自動ドアにぶつかるくらいの勢いで店を出た。
ケータイから、三日ぶりに彼女のアドレスを呼び出した。

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